上野誠「万葉集から古代を読みとく」(2017/6/25(日))に、≪「やど」とは、個人の住む家の前の小空間をいう≫とあり、驚いた。万葉集所収の和歌についての解説に記されているもので、古文の常識なのかも知れない:
我がやどの 萩の下葉は 秋風も いまだ吹かねば かくそもみてる
(大伴家持 巻8-1628)
このころの 暁露に 我がやどの 萩の下葉は 色付きにけり
(作者未詳 巻10-2182)
この両歌の鑑賞に限れば、「我がやど」を「我が家」と解しても差し障りは無いが、他の用例などから、「家の前の小空間」という定義が導かれるのだろう。
ネット辞書に当たってみると、次の通り:
や‐ど【宿/屋戸】
《「屋の処(と)」の意か。または「屋の戸」「屋の外(と)」の意か》
1家。すみか。「埴生(はにゅう)の―」
2《「やどり」との混同から》旅先で一時的に泊まる家。また、宿屋。「今日の―を決める」
3妻が他人に対して夫のことをいう語。主人。宅。
「私が申しますと―が立腹致しますから」〈円朝・真景累ヶ淵〉
4奉公人の親元や請け人。また、その家。「―へ下がる」
5ある目的のもとに、人々が集まる所。若者宿・娘宿など。
6揚屋(あげや)。置屋。また、その主人。
「―を頼んで田舎客の談合破らせ」〈浄・冥途の飛脚〉
7家の入り口。戸口。
「夕さらば―開け設(ま)けて我待たむ夢(いめ)に相見に来むといふ人を」〈万・七四四〉
8家の庭先。
「秋は来ぬ紅葉は―に降り敷きぬ道ふみわけてとふ人はなし」〈古今・秋下〉
「屋の処(と)」「屋の戸」「屋の外(と)」の三つを使い分けていたのだろうか。
上掲和歌の原文表記を検索すると、次のようである: