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小林秀雄 ~ 相転移 ~ 中谷宇吉郎

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孫引きだが、≪将棋の神様どうしが対局したら、果たして勝負はどうなるだろうかという面白い話≫を小林秀雄が『文藝春秋』昭和346月号に書いたという(小山慶太、『學鐙』秋号 平成2895日)。
 
“神様”とは、勝負の最終結果まで読むことが出来る超能力の持ち主である。将棋の指し手の数は有限であるから、様々な指し手の組合せを総て読み通せるとすれば、勝負は最初の一手で決まる。つまり、どちらが先手になるかで勝敗は決まるという結論を、物理学者の中谷宇吉郎が小林に語ったのだそうだ。
 
小山氏は、チェスや囲碁なども含む知的ゲームにおける人工頭脳(AI)の進歩の事情も引き合いに出しながら、中谷の機械的決定論に異議を唱える。その根拠は、指し手応酬のヴァリエーションが理論的には有限であるとしても、それらを総て計算するにはスーパーコンピュータでも宇宙の年齢を超える時間を要するほどの厖大な数になることである。
 
この厖大さは、事実上、無限大といえる、と小山氏は断ずる。すなわち、ゲームの勝敗は初期条件で一義的に決まるとは言えない、≪有限と無限大の世界では同じ原理を適用できない、何か本質的な違いがある≫とのお考えである。
 
そして、その本質的な違いは、有限(必然の世界)から無限大(偶然の世界)への≪相転移≫が起きているのではないかとも表現なさる。
 
この≪相転移≫なる物理用語、格別新しい言葉ではないが、最近ちょっとした流行語になりかけたところだ:
 
ノーベル物理学賞に米の研究者3人 超伝導など原理解明 2016105日 朝日新聞デジタル
スウェーデン王立科学アカデミーは4日、今年のノーベル物理学賞を米国の大学の研究者3人に贈ると発表した。
東京工業大の村上修一教授(物性物理学)の話 多くの研究者が取り組んでいるトポロジカル絶縁体の前段階の部分などが評価された。受賞が決まった3人は、「トポロジー」の概念を様々な物質に応用した源流の理論研究者だ。新しい物質の状態や、物質の状態が変わる相転移の新しい種類について理論を構築したことで、超伝導など様々な分野に波及した。(2016105日)≫

イメージ 1
 







              (身近な相転移)

ところで、理論的には有限であっても、計算能力上は無限大とみなすのが妥当だからとの理由でゲームの勝敗は偶然の世界に属するとの小山氏のお説は、実際のゲームについてはその通りであるが、“理論的”には、やはり初期条件で決まる必然の世界に属するだろう。つまり、≪相転移≫は無いのだ。

日本人の受賞ではなかったためか、オートファジーと違って、流行語にはならなかった。

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