古代エジプト、ファラオの世界に誘われる話題:
≪ツタンカーメン王墓の「隠し部屋」、迷走の真相
日経ナショナル ジオグラフィック社 2016/5/22
ツタンカーメン王の石棺のそばで、レーダースキャンについて話をする考古学者のニコラス・リーブス氏、上野由美子氏、そしてカイロ大学のレーダー専門家アバス・モハメッド・アバス氏。(PHOTOGRAPH BY KENNETH GARRETT, NATIONAL GEOGRAPHIC)
~ツタンカーメン王の墓~玄室の壁をかつてないほど詳細に描き出したレーザースキャンの結果を、英国人のエジプト学者ニコラス・リーブス氏が分析したところ、北と西の壁に描かれた絵の下に入口のようなものがあることに気付いた。2015年7月、リーブス氏は墓にはもうひとつ別の部屋が存在し、そこに王妃ネフェルティティが眠っているのではないかとの自説を発表した。
2015年秋、サーモグラフィーによるスキャンで、北の壁にリーブス氏の主張する入口のような形に合う何かがあることが明らかとなった。実際の壁そのものを直接調べた結果も、肯定的なものだった。渡辺氏は、自身で持ち込んだ機械がこの空間の中に金属製のものと有機物も感知したと報告している。
ところが、2016年3月にナショナル ジオグラフィック協会が支援する2人のレーダー技術者が改めてスキャンを行い、今回明らかにされた分析結果は、渡辺氏のそれとは異なるものだった。エジプト学の権威で元考古大臣のザヒ・ハワス氏は、会議の席上で次のように発言した。「もし、何らかの石造物や隔壁があるなら、レーダーが映し出すはずです。しかし、そんなものは見えません。つまり、何もないということです」
渡辺氏は3月にスキャン画像の一部を公開したが、これを見た地中レーダーの専門家からは分析内容を疑問視する声が数多く飛び出していた。彼らは画像には「何も見えない」と口をそろえ、また渡辺氏が主張するような「有機物」はレーダーでは判断できないはずだと指摘する。
グッドマン氏によれば、渡辺氏は生データを公開していないという。会議に出席していた渡辺氏へインタビューすると、40年以上レーダーを扱ってきた経験を基に、自分の機械に大幅にカスタマイズを加えているため、他人にはデータが読み辛いが、自らの結論には自信を持っていると、通訳を通じて語った。≫
半世紀近く前、地表の航空写真だけで地下の地質構造(主として断層の有無)を判定できると称する地質調査工法が公共事業に採用されるという事件が有った。当時既に地震探査などで地下構造を調べる物理探査は実用化されていた。しかし、地表写真を眺めるだけで地下構造が判るなどということは近代科学では認められない。
大きな地形の特徴がある種の地下構造を示唆するなどという単純な話ではなかった。その工法の創案者は、自分の目には見えるのだと主張した。信じるか信じないか、まるで宗教論争のようであった。それが公共事業に採用されるなど、それこそ常識人には信じられないことであった。
事業体の技術者たちが胡散臭い調査工法に疑問を持たないはずが無い。つまり、組織の上の方から、あるいは裏の方から、大きな影響力が行使されたのではないかと考えるしかなかった。
一旦表舞台から消えた神懸かり的工法が、数年後、場所を変えて再登場したと伝えられた。