櫻井雅人ほか著「仰げば尊し 幻の原曲発見と『小学唱歌集』全軌跡」(2015.2 東京堂出版)の借り受け順番が回って来て、少しずつ読んでいる。例によって啓発されることは多いが、先ず、取っ付き易い事項から記録して行こう。
『小学唱歌集』は明治15年から17年にかけて文部省が刊行した3編の音楽教科書で、91曲の唱歌が収められており、以後昭和まで続く一連の文部省唱歌の源流ということになる。今に歌い継がれる「仰げば尊し」もその中にあり、全91曲の素性を明らかにしたという触れ込みの力作である。実際の記述では、不明、推測レヴェルのものも見受けられる。
『小学唱歌集』初編収載の第十五「春のやよひ」の原曲が、1827年エディンバラ出で出版のR. A, Smith 編集『選曲集』にある「ヒンドゥー曲 踊る少女の歌」であるというのに興味を惹かれた。“はるのやよい”と来れば、“~~の あけぼのの ~~”と反射的に歌の文句が浮かぶ。勿論メロディー付きで。
早速、楽譜を検索してメロディーを確認したところ、覚えているのとは別の曲であった。歌詞は『小学唱歌集』自体には記載されていないが、慈鎮和尚の作だそうだ。
一、
春のやよいの あけぼのに
四方の山べを 見わたせば
花盛りかも しら雲の
かからぬ峰こそ なかりけれ
二、
花たちばなも 匂うなり
軒のあやめも 薫るなり
夕暮さまの さみだれに
山ほととぎす 名乗るなり
三、
秋の初めに なりぬれば
ことしも半ばは 過ぎにけり
わがよ更けゆく 月影の
かたぶく見るこそ あわれなれ
四、
冬の夜寒の 朝ぼらけ
ちぎりし山路は 雪ふかし
心のあとは つかねども
思いやるこそ あわれなれ (d-score による。)
なんと、これも四季の歌ではないか。慈鎮和尚とは、ウィキペディアによれば、“慈円(じえん、旧字体:慈圓、久寿2年4月15日(1155年5月17日)- 嘉禄元年9月25日(1225年10月28日))は、平安時代末期から鎌倉時代初期の天台宗の僧。歴史書『愚管抄』を記したことで知られる。諡号は慈鎮和尚(じちんかしょう) ...”である。十年後に没後800年の大遠忌を迎えるのだ。今から特集コンサートの準備をしても、自分がこの世にいないかも知れないなあ。
なお、我が記憶に残っていたメロディーは邦楽の「越天楽」ということになっている。「黒田節」もこの系統に入るそうだ。