図書館に予約登録して1年近く経ったろうか、漸く、明智憲三郎/著「本能寺の変431年目の真実」(東京文芸社 2013.12)を読ませて頂いた。よほど評判の高い本だったのだろう、区立図書館には5冊購入されており、全部貸し出し中だ。歴史好きにとっては抗し難い題材だし、タイトルの付け方も上手だから、必然の成功と言うべきか。
出版元による内容紹介:
光秀の末裔がついに明かす衝撃の真実!!
名門・土岐明智氏の行く末に危機感を抱いていた光秀。
信長の四国征伐がさらに彼を追いこんでゆく。
ところが、絶望する光秀の前に、天才・信長自身が張りめぐらした策謀が、千載一遇のチャンスを与えた!
なぜ光秀は信長を討ったのか。背後に隠された驚くべき状況と、すべてを操る男の存在とは! ?
新事実をもとに日本史最大のクーデターの真実に迫る、壮大な歴史捜査ドキュメント!
信長の四国征伐がさらに彼を追いこんでゆく。
ところが、絶望する光秀の前に、天才・信長自身が張りめぐらした策謀が、千載一遇のチャンスを与えた!
なぜ光秀は信長を討ったのか。背後に隠された驚くべき状況と、すべてを操る男の存在とは! ?
新事実をもとに日本史最大のクーデターの真実に迫る、壮大な歴史捜査ドキュメント!
“歴史捜査ドキュメント”を標榜するように、一種の推理小説と見做してよいだろう。しかし、全体が解説調だから、最後はどうなるのだろうかと期待に満ちて読み進むような本来の小説ではない。むしろ、本能寺の変にまつわる幾つかの謎とされる事実に関する解説に本書の力点があると思われる。
全体に著者の主張は説得力があるように思わされるが、あくまでも仮説の組み合わせであるので、これが真実であるという保証は無い。信長が仕掛けた家康討ち取り計画を光秀が乗っ取って逆に信長を討ったという結論に都合の良いように諸資料を解釈したものである。しかも、光秀と家康は事前に通じ合っており、秀吉もまたそれらを総て把握した上で、彼らの裏をかいた、となると、話が出来過ぎだ。後知恵で創作したシナリオと見るのが普通だろう。
また、本書で大胆な新説であるかのように述べている変の真相のうち、かなりの部分は既に過去に考察されているような気がする。光秀と家康の通謀とか、秀吉の事前情報入手とか。信長の「唐入り」(大陸への侵攻)計画が光秀謀反を招いたとの主張は新説なのだろうか、勉強不足で解らない。
繰り返しだが、小説としては面白い。我々一般の読者の知らなかったような史実をいろいろ教えて貰えるのも有難い。信長がイエズス会宣教師から引き取った黒人奴隷の話など実に興味深い。宣教師と言えば、彼らが変の際に脱出を助けてくれた光秀の恩を仇で返したことが光秀敗亡に繋がったとの推論は当たっているのだろう。
そこで、著者に成り代わって、話を徳川幕府のキリシタン禁制の背後に想像を廻らせてみよう。家康は、盟友光秀を滅亡させたキリシタン一派を憎み、権力確立後は徹底的に彼らを弾圧した、というのはどうだろう。幕府による禁教令については歴史上の謎など無いのだろうが、シナリオを作ることは出来る。
本書は昨年の発行だから“431年目の”と称しているが、今年であれば“432年目”となり、きれいに数字が並ぶ。ひと月待つだけでよかったのだ。どうでもよいことだな。昨年と言えば、岩井三四二/著「光秀曜変」(光文社 2012.11)を読んで感想や連想を書いた(2013/3/1(金)、2013/3/3(日) )。