もう半月ほど前、次のようなニュースが一般新聞で結構大きく報じられた:
www.nikkei.com › Oct 20, 2014 - ドイツの哲学者ヘーゲル(1770~1831年)が自身の初版本に当時の書評を抜粋して書き込んだ本が、東京都内の古書店で見つかったことが20日、寄川条路・明治学院大教授(哲学)の調査で分かった。
寄川教授によると、今回見つかったのはヘーゲルの最初の著作「フィヒテとシェリングの哲学体系の差異」(通称「差異論文」、1801年)。本の表紙を開いた部分などにドイツの「エアランゲン文芸新聞」に02年に掲載された同作への書評の一部を書き込んでいた。ドイツのへーゲル文庫所長もヘーゲルの自筆と確認した。
寄川教授は「ヘーゲル自身が書評に納得して書き込んだのではないか。もともとはヘーゲル自身が手元に置いていた初版本とみられる。ヘーゲル研究の第一級の史料だ」と話している。
同書は、元陸軍獣医学校校長、今泉六郎博士が1890年代にドイツ留学した際に入手し、神奈川県立小田原中学校(現在の小田原高校)に寄贈したものとみられる。2000年ごろに古書店に買い取られたらしい。〔共同〕”
ヘーゲルの名や弁証法は知っていても、実際に彼の著書など、原語は言うに及ばず、和訳でも読んだ事は無い。この歴史上の大哲学者の自筆書き込み(二百年以上前)のある自著となると、目も眩むような財宝にも譬えたくなる。
そのような貴重なモノが日本の古書店で売られていたというのも驚きだ。謎解きをされても、やはり不思議な巡り合わせだとの思いは強い。
この大発見の続報があって、
“ヘーゲルの自筆本を特別展示します:11月7日(金) 10:00から18:00、8日(土) 10:00から17:00 場所:東京古書会館地下1F 「洋書まつり」会場(入場無料) この本の現在の所有者であり、書き込みの調査に当たった寄川条路・明治学院大学教授による講演会も行われます。東京都古書籍商業協同組合”
ということだ。今週末は野次馬根性丸出しで、ヘーゲル自筆本を一目拝んで来たいところだが、結構スケジュールが詰まっているなあ。
同組合のメルマガに、発見者である明治学院大学教授 寄川条路さんが「日本で発見されたヘーゲルの自筆本をめぐって」と題して、書いている。
“本には「今泉博士寄贈」と手書きされており、元陸軍獣医学校校長の今泉六郎がドイツ留学中にベルリンの古書店で入手し、帰国後に神奈川県立小田原中学校(現・小田原高校)に寄贈したものとわかった。また、小田原中学校の前身「第二中学校」の印が押されていたこと、そして「廃棄分」と手書きされて処分されていた”という。
ヘーゲルの哲学に興味を抱いていた今泉先生も、古書店での買物がヘーゲルの自筆旧蔵本であるとは気付かなかったと推測される。ましてや、先生からその本を寄贈された中学校では、宝の持ち腐れ状態だっただろう。結果的に廃棄処分されたわけだ。潰されずに古書業界で生き延びたのも奇跡的だ。ヘーゲルの名声と刊年の古さが同書の命を守ったのだろう。
“まだ多くの「今泉寄贈本」が行方不明となっているので、発見の「手がかり」を明かして、不明となっている第一級の資料をみんなで探し出したい”とのことで、「今泉寄贈本」なるカテゴリーのあることが判る。目録があるのだろうか。
“発見の「手がかり」を明か”すとのこと、お宝捜しに乗り気な蒐集家が殺到するのではないか。
ところで、問題のDifferenz des Fichteschen und Schellingschen
Systems der Philosophie初版本(1801)の売買価格は如何ほどだったのだろうか。