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鳴神響一「江戸萬古の瑞雲」~『七草ばやし』~ 貧の盗みに恋の歌

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今日読んだ小説、鳴神響一「江戸萬古の瑞雲」(幻冬舎文庫 2018.12.10)の冒頭に

   《七草なずな 唐土の鳥と 日本の鳥が 渡らぬ先に ストトントン》
 
という歌の文句が出てくる。
 
『七草なずな』とか『七草ばやし』などと呼ばれるわらべ歌で、、、正月七日に七草粥を作るために野菜を刻むときに古くから歌われてきた、とある。
 
春の七草を覚えるのに便利な《せり、なずな、、、、》はいつの頃からか知っているが、『七草ばやし』は初見だ。歌われているのを聞いたこともない。
 
ネット検索すると、物識りの皆さんの解説がたくさんヒットした。江戸随筆「守貞謾稿」にも載っているとのことだ。音源や楽譜もあった。当方が無知なだけで、世間ではよく知られた俗謡のようだ。
 
歌詞にはさまざまな異版があるらしいが、大意は《大陸から鳥が災厄を持って渡って来る前に備えをしよう》ということだと聞くと、昨今の鳥インフルエンザや大気汚染の元凶を連想する。昔の人は海を越えて病原体や汚染物質が日本にやって来ると直感していたのか。
 
優れた小説家の博識には感心する。よく勉強しているに違いない。時代小説などを書くには、時代考証を欠かせない。生半可な雑学知識ではボロが出る。鳴神響一さんも相当の物識りであることは確かだ。
 
ただ、1箇所腑に落ちない記述があった(p.184):
 
《、、、八月二十二日、、、深更に上弦の月が昇る頃であり、、、》
 
江戸時代の話だから日付は勿論いわゆる旧暦に拠っており、ほぼ月齢そのものだから、下弦の月でなければならない。月の出はまさに真夜中となる。
 
昔の出版物ならばミスプリ(誤植)かと思うところだが、今は電子データの遣り取りで済ますだろうから、“執筆”段階のミスと考える方が自然だ。弘法も筆のなんとやら、の伝か。
 
しかし、そのすぐ後(p.189)に、《貧の盗みに恋の歌》などという気の利いた諺を教えてくれる。当方にも心当たりがあるとは言わないが、なかなかに人の本性を穿っている。 
 
推理の甲斐と楽しみのある好著だ。


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