槇佐知子氏の≪機≫連載エッセーの昨年12月分で、草木の灰の薬効を取り上げている。旧約聖書ヨブ記、グリム童話シンデレラ、日本昔話花咲爺それぞれに灰が絡むというわけで、うちヨブと花咲爺で灰の薬効が示唆されるとのことだ。
『医心方』には、冬灰和名阿加佐乃波比(アカサノハヒ)すなわちアカザ科一年草シロザの灰が記されており、シロザは一名灰草と称するそうだ。皮膚病や腫瘍にさまざまな動植物の灰を用いた処方があるとのこと。槇氏からは、前にも話題を頂戴している(槇佐知子氏~杉の葉煎汁~花粉症特効薬 2017/4/9(日))。
最近読んだ義江明子「つくられた卑弥呼」(筑摩書房2018.10)の中に、大和朝廷に征討され「土蜘蛛」と蔑称された地方豪族の具体的な呼び名についての考察がある。男の土蜘蛛で“草野灰(かやのはい)”と呼ばれる者がいた。“グリム童話の、継母によって台所に追いやられた少女=「灰かぶり」と同様の命名法である”と述べる。
槇氏の所説に照らせば、“草野灰”は、草(カヤ)の灰を医薬として用いたり、商ったりしたことによる命名だったのではないか。シンデレラ(灰かぶり娘)の命名とは少し趣が違うことになる。