井上寿一「戦争調査会 幻の政府文書を読み解く」(講談社 2017.11)を図書館から借りて読んだ。
「戦争調査会」とは何か。短小にして漠たる名称は、長大かつ特殊具体的な公用語に慣らされた目には奇異に映る。本書冒頭の説明から引用する:
≪1945(昭和20)年10月30日、幣原内閣は「敗戦の原因及実相調査の件」を閣議決定する~再び戦争の過誤を犯さないように、政治、外交、軍事、経済、思想、文化などの多角的な視点から、敗戦の原因と実相を明らかにする政府機関として、戦争調査会が設置されることになった~戦争を検証する国家プロジェクトが始まる≫
素直に読めば、先の大戦を実証的に調査し、今後新たな戦争をしないための方策をまとめようという目的の政府機関が作られたことになる。ひねくれた読み方をすると、敗因を明らかにし、この次は負けないように教訓を学ぼうという魂胆があるのかも知れない。
実際は、今後の戦争のためではなく、敗戦に至る過程の研究により、戦争をしないで済む知恵を探究しようという意図であると幣原首相は明言したが、同時進行する極東軍事裁判との絡みもあり、連合国側の疑念を払拭できず、1946年9月、吉田内閣の時に廃止された。その間、調査活動は実施され、資料は一部残されたが、報告書は作成されなかった。
そんな「戦争調査会」という組織が首相のお声掛りで設置されていたことなど、当方は全く知らなかった。やはり政府主導で設置された「憲法普及会」(参考:ミニ・コンサート~自讃と反省~希望 2009/5/31(日) など)を思い出す。両会とも、平和と民主主義を希求する当時の政府の姿勢が窺われる産物であり、近年の日本政府の体質が嘘のようだ。