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重力波は歌う ~ ビッグドラマ ~ 出版後ノーベル賞

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ジャンナ・レヴィン(Janna Levin)/著(田沢・松井訳)「重力波は歌う  アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち」(早川書房2017.9)を読んだ。著者は物理学者であるが、本書は「重力波」の解説ではなく、重力波の直接観測を目指す科学者たちの約半世紀に及ぶ実験の物語である。
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ビッグプロジェクトに携わる多数のノーベル賞級の科学者たちの人間関係、人間模様が丹念な取材に基づいて生き生きと描かれている。
 
厖大な資源と労力と時間を費やした彼らの努力が実を結んで、重力波を直接に検出したと公式に発表されたのは、2016年2月11日である。実際の初検出日時は、前年2015年の9月14日午前9時51分UTC(協定世界時)(September 14,2015 at 5:51 a.m. Eastern Daylight Time (09:51 UTC))である。
 
著者が、本書の執筆を終え、出版の段階に差し掛かっている時に、重力波検出の報を受け取ったらしい。それは世界中でも極く限られた関係者だけに伝えられ、公式発表の時まで秘蜜扱いだった。その間に著者は重力波検出の偉業達成を本書に盛り込むことが出来たのだから、実に運の良い人だ。
 
この偉業達成に対してノーベル物理学賞授与が発表されたのは本年2017年10月で、原書出版の1年後であるが、訳書に対しては出版直後という絶妙なタイミングであった。運が良いと言うより、授賞を予想しての発行時期決定だったのかな。
 
原題は BLACK HOLE BLUES AND OTHER SONGS FROM OUTER
SPACE (Knopf, March 29, 2016)、訳せば「外宇宙からの黒穴ブルーズその他の歌」となるが、黒穴は勿論、いわゆるブラックホールだ。地球に届く重力波を音波として、歌として聴くことになぞらえて全篇を書き通している。それが訳題の意味するところでもあると思われる。
 
訳書版元による紹介文:
 
≪物体が運動したときに生じる時空のゆがみが光速で波のように伝わる現象「重力波」。100年前にアインシュタインが存在を予言しながら、これまで観測されていなかったこの波動を、米国の研究チームがついにとらえた。ノーベル物理学賞を受賞した歴史的偉業の裏には、どんなドラマがあったのか? 天文学の新地平を切り拓く挑戦の全貌を関係者への直接取材をもとに描き出す、出色のサイエンス・ドキュメンタリー。解説/川村静児≫
 
解説を担当した川村静児氏自身も、諸情報によると、このビッグプロジェクトに深く関与しただけでなく、その成功に多大の貢献を為したと言う。重力波の検出には様々の雑音(ノイズ)を除去、補正して、観測の精度を高めなければならないところ、彼の発案により、精度を一気に3桁も上げることが出来たと言う。そのブレイクスルーが無ければ初検出は未だ実現していないと思われる。
 
日本人では、ハイゼンベルクの不確定性原理を修正した、かの小澤正直教授も、まさにその≪小澤の不等式≫(ハイゼンベルクの不等式~不確定性原理~小澤の不等式)によって、理論面から偉業達成に不可欠の貢献を為していると言う。
 
勿論、日本人ばかりでなく、世界各国(一説に15か国)の科学者が協力しての快挙である。このような場合の顕彰は、特定個人ではなく、組織あるいはプロジェクトを対象とするのが適当ではないだろうか。実際、今回の受賞者の一人(バリー・バリッシュ氏)は、学術的功績ではなく、プロジェクトの運営・管理面での業績が評価されたもののようだ。
 
ところで、重力波となにげなく口にするが、前から気になっていることがある。例えば、波としての振動数や振幅は如何ほどのものなのか、全くイメージが掴めていなかった。
 
今回大雑把に調べたところ、振動数は概ね人間の可聴域に重なるらしい(例えば 20~1000ヘルツ)。これなら≪重力波は歌う≫と言うのも不自然ではない。
 
振幅が少し厄介で、長さ(2点間の距離)の変化率で示すらしい。それが今までよく話題に上った10のマイナス23乗などの数字だったのだ。今回見た資料では10のマイナス21乗となっていた。
 
重力波が少し身近に感じられるようになった気がする。
 
原書の目次は次の通りである:
 
When blackholes collide
Highfidelity
Naturalresources
Cultureshock
Joe Weber
Prototypes
The Troika
The climb
Weber andTrimble
LHO
Skunkworks
Gambling
Rashomon
LLO
Littlecave on Figueroa
The raceis on
 
第13章の≪Rashomon≫は、日本語の「羅生門」だと訳者が解説している。それが英語に入って、日本人の思いもつかない意味で使われているらしい。訳題は「藪の中」となっている。

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