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J.P.ホーガン③ ~ 多次元小説 ~ 奴隷根性批判

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「星を継ぐものInherit the Stars 1978」に始まる、ジェイムズ・P・ホーガン/著・池央耿/訳のガニメアン・シリーズ三部作2017/11/20()2017/11/19())の「ガニメデの優しい巨人The Gentle Giantsof Ganymede 1978」と「巨人たちの星Giants Star 1981」を読んだ。


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SF、つまりはフィクションではあるが、現実の物理思想を踏まえての思考実験風の物語展開には引き込まれる。改めて著者に関するウィキペディアの記述を見たら、≪工業専門学校で5年間、電気工学、電子工学、機械工学を学んだ ~ いくつかの企業で設計技術者として働き~≫などとあり、単なる童話や夢物語と感じさせない筆力に納得。
 
ブラック・ホール発生装置の原理の解説などは、いかにも本物らしく読ませるし、今年のノーベル物理学賞に輝いた重力波検出を髣髴させる場面やその応用通信技術の登場などは、将来予測の的確性を思わせる。
 
恒星宇宙を舞台にし、数千万年の時間軸を往復し、超光速伝送技術で何光年もの距離を瞬時に克服し、多数の重層的登場者・組織を多次元的に操る、遠大な構想とそれを統一的に展開させる能力もただものではない。細部に拘れば全体の構成がまとまりを欠いたり、全体統一に気を取られれば細部の描写が空疎になったりしそうなものだが、そのような難点も見当たらない。
 
随所に著者の文明論、社会論、政治論、科学論的哲学が散りばめられているのも魅力だ。登場人物の口を借りて披歴している一例を挙げる:
 
≪日々安楽に暮らし、市民としての務めを果たし、そして他人には邪魔されないこと。それが大方の市民のささやかな、しかし、強い願望である。それなのに、極く少数の野望を抱く者たちが権力を握り、自分たちに都合の良い規範を一般大衆に押し付けようとするのはいったいどうしたことだろう?狂った信念に憑かれた一人と、信念などはどこ吹く風という百人とでは、はたしてどちらの罪が重いだろうか?
 
あそこでああやっている子供たちは、別の世界で別の太陽の下で大きくなってもいいはずだということだよ。そのためには知識が必要なんだ。ところが、形態の如何を問わずすべて圧制者にとって、知識は敵なのだよ。知識は歴史を通じて、いかなるイデオロギーや信仰にもまして多くの人間を貧困と抑圧から解放した。あらゆる隷属は、被(原文:)抑圧者の奴隷根性に発するんだ。≫
 
昨今の時代状況を活写しているようではないか。
 
著者は意外に早く亡くなっていた:
 
ジェイムズ・パトリック・ホーガンJames Patrick Hogan1941627 - 2010712日≫
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