≪毎日新聞ニュースメール 2017年11月29日(水)夕
先日、トランプ米大統領が来日した。日本人以上に日本語と格闘してきた米国詩人、アーサー・ビナードさん(50)は何を感じたのか。滞日27年の経験から、今はっきりこう言える。「日本人は間違いなく変わってきた。僕の目から見れば悪い方へ」。どんなふうに?
▽特集ワイド:滞日27年、詩人アーサー・ビナード氏の「直感」 「日本語は消滅に向かっている」(有料会員限定)
~ビナードさんは理屈より直感を大切にする。日本との縁もそうだ。~卒業式も待たずに来日し、以来、詩歌、落語などあらゆる日本語を人並み外れた努力で吸収し、詩やエッセーで数々の文学賞を受けてきた。~そんな「直感の人」は今の日本をどう見るのか。例えば最近のトランプ米大統領の来日劇。
「そもそも来日に意味があるかを冷静に考えた方がいい。トランプ大統領がハワイから米軍の横田基地に降り立ち、銀座でステーキを食べ、ゴルフをしたことに意味なんてあるのか」
日本政府は買えと言ったものを武器でも何でも買ってくれるとトランプ政権が受けとめたこと。~米軍と自衛隊が合同演習をして『北朝鮮をけん制』と報じていたけど、けん制できたかなんてわからないよ。それを『けん制』と言い切るのは広告でしょ。僕らは思考停止のまま、そんな結論をのみ込み導かれていく」。どこへ。「日本はやはり属国なんだ」という達観へ?
大好きな宮沢賢治の詩など美しい日本語がいつまでも残ってほしいと願うビナードさんにとって一番の気がかりは日本語の衰退だ。「言語の延命には二つの条件がある。民族のアイデンティティー、平たく言えば自国に根づく心と、その言語による経済活動です。でも日本ではいずれも弱まっており、日本語は消滅に向かっている」とみる。~
デリバティブといった用語だけでなく、日常会話でアウトソーシングやインバウンド、デフォルトといった言葉を当たり前のように私たちは使う。経済だからいいかと思っているが、「米国の先住民の言葉が絶滅に向かったのは、貨幣から時間の表記、契約まで何もかも英語を強いられたから。中身や衝撃度がわかっていないのにTPP(環太平洋パートナーシップ協定)という言葉だけが独り歩きし、わかった気分になっているうちに、チチンプイプイとだまされる」。日本語が追いやられるだけでなく、人が自分の言葉で考えなくなるという危惧だ。~
。「安保法制などで国会を軽んじ、内閣で何でも進めようとする安倍さんに国民がさほど抵抗しないのは、みな日本が米国から独立していないと思っているからですよ。安倍さんはチェーン店の店長みたいな人だから言っても仕方ない、言うなら本社、アメリカだと思っているんです。プーチン(露大統領)らが日本の外交にあまり興味がないのも、日本を独立国家だと思ってないからでしょ。いい政治をしてたとは思えないけど、僕が来日した頃は、例えば米通商代表部の代表だったミッキー・カンターとやり合った橋本龍太郎みたいに、独立はあり得ると考えていた人がまだいた。今は皆無じゃないかな」~
自分が日本に来た1990年代、普段使われる「和」といえば和の精神、調和が先に来たが、いつの間にか「日本」という国そのものを指すことが多くなった。ここは日本なのに、なぜあえて「和」と銘打たねばならないのか。日本人は自分たちの文化を「よそ者の目」で見始めたのでは。そんな仮説を立てると、いろんな事が納得できたという。~。「一方でハロウィーンが定着し、政府は家畜番号みたいなマイナンバーという言葉を喜んで使う。この前、区役所で、ホワッツ・ユア・マイナンバー(あなたの私の番号は何番?)って英語で聞かれて、本当に吐きそうになったよ」~
自分たちの国を自分たちで好きなようにつくろうという真の意味での独立を日本人は諦めているのではないか~。「じゃあ、どうすればいいのか。そう言うと、みな足し算で考えるでしょ。安倍さんじゃないけど、対案を出せと。でも引き算でいい。政治宣伝から普通の広告まで、垂れ流される映像、情報を拒否し、スマホも持たない運動を僕は広げたい」。そして静かに考えようと。
<担当記者から(藤原章生)>
滞日27年の米国詩人、アーサー・ビナードさんは、日本に魅せられた時期を経て、日本に強い違和感を抱く段階に入ったようです。日本は「米国の属国」に甘んじ、自分の国を自分たちで築いていく胆力がない。気概のある個人はいるのに、その人たちの声が政治に反映される仕組みがない――と。日本を第一に考えている人ならではの嘆きでした。≫
引用量が多過ぎると叱られそうだが、日本の現状を冷静に見ている外人さんの警告を真面目に受け止めておきたい。このインタヴューでは、民意が政治に反映されない我が国の政治の仕組みも取り上げられたようなのだが、見落としたかな?